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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

エピローグ

                     ≪十一月二日≫  ―最終章―

午後8時ぴったり、小平君と玲子ちゃんが現れた。

顔を合わせるなり、玲子ちゃんが言った。

       玲子ちゃん「ごめんなさい!あなたに借りていた”楼蘭”と

            言う本、ちょっとテーブルに置いていたら無くな

            ってて・・・、随分周りの人にも聞いて探してみ

            たんだけど、見つからないのよ。外人が読めるわ

            けでもないし・・・・、テッシン君に、引き続き

            探してもらっているから、多分出てくるとは思う

            けど、本当にごめんなさい!」

           俺「いいよ!一度読んでしまっている本だから。」

奥さんに抱かれている新太郎君に手を振ると、”バイバイ”とでも言うよう

に、手を振り替えしてくれる。

真美ちゃんとは、固い握手。

良い家族との別れである。

         奥さん「それじゃあ、お元気で!」

        和智さん「手紙、くれよな!」

         小平君「突然、日本に帰るようになってごめんな!」

       玲子ちゃん「じゃあ、お元気で、身体に気をつけて、無事日

            本の土を踏んでくださいね!無理しちゃダメ

            よ!」

玲子ちゃんと最後に握手して、和智さん家族と小平君と玲子ちゃんがバスに

乗り込んだ。

周りはもうとっくに、闇に包まれている。

この我々の周りだけが、明るく光を放っている。

まるで、劇場の舞台のように。

思い立ったように、小平君がバスから降り、焼き栗を買い出した。

おかげで、バスはエンジンをかけたまま、彼を待っている。

俺が持っていた焼き栗を、バスの中にいる玲子ちゃんに手渡した。

玲子ちゃんがニッコリと笑った。

乗客たちは他に四五人いるだけのようだ。

玲子ちゃんが、窓越しに手を振る。

和智さんと真美ちゃんは、ドアのところまで来て手を振ってくれた。

真美ちゃんも新太郎君も笑っている。

小平君が、バスに戻り、扉が静かに閉じられた。

それがあたかも、旅の終わりを告げるように・・・・・。

バスが、音もたてず滑り出した。

闇の中に、バスが消えていく。

周辺の音も消えていく。

和智さんが、奥さんが、新太郎君が、真美ちゃんが、そして小平君が、玲子

ちゃんが、闇の中にバスよりも遅れて消えていく。

今日が閉じられようとしている。

そして今、「全日本ヒッチハイク競技大会」が幕を下ろす。

そんな気がした。

何事もなかったかのように、静寂が街を包み込んでいる。

たった今まで、アテネの街のどこよりも明るかった、日航オフィスの前が、

他と同じように暗闇に包まれ静かさを取り戻していた。

俺達の旅が、もう何年も前の出来事だったかのように・・・・・・。

すべてが・・・・幻だったかのように・・・・。

一世一代の・・・・旅が今、終わった。





              * * * *


           <最後の日の家計簿>

            1、宿泊代・・・・・・・・・・50DR(400円)

            2、昼食代・・・・・・・・・・23DR(184円)

            3、サンドウィッチ・・・・・・20DR(160円)

            4、夕食代・・・・・・・・・・40DR(320円)

            5、焼き栗(3袋)・・・・・・・・30DR(240円)

                 計・・・・・・・・163DR(1304円)


      * 長らくつたない文章にお付き合いいただきました事、まこ

       とにありがとうございました。

       これにて、「全日本ヒッチハイク競技大会始末記」を終了さ

       せていただきます。

       本当に、ありがとうございました。

        期待されていた外国の状況などは、ほとんど伝えられませ

       んでしたが、何かご感想があれば、コメントをいただけたら

       嬉しゅうございます。

        この後の、私の足跡はURL”

       http://plaza.rakuten.co.jp/hiko6/”に引き続き掲載されて

       いますので、嫌がらずにご訪問くだされば、感激に咽ぶ事と

       思います。


        こういう体験を、是非若い人たちに経験していただいて、

       日本という国をもう一度、見つめなおしていただけたら幸い

       です。

       日本を出ないと、日本と言う国がわからないものです。

       故郷を離れて、初めて故郷の良さを実感するよう

       に・・・・・・。

        長い間、本当にありがとうございました。

       最後にこの詩を記して終わりにします。

           
            
            **********
        
          ”私は今、消えた

            現実から、社会から、私は今解放された

             宇宙飛行士が、地球を脱出したように

               現実そして、自分自身からの脱出

                 私は今、それを成し遂げた

                  そう私は思った

           しかし、今の私に行くところなど、どこにもない

            宇宙飛行士が、闇の中でもがくように

             私は今、私自身の宇宙を彷徨っている

              振り返ると

               脱出して来たばかりの

                青い青い地球が見える

           地球にいた時、私は宇宙の広さを夢見ていたのに

            宇宙を彷徨っている今

             そこが、ヤミだと言う事に気づいた

              解放されたはずのここには

               ただ、闇が広がっているだけ

           いまや私には、しっかりと踏みつけるだけの

            大地さえ、存在しないことに気づいた

             私はもう一度試みよう

              そう、宇宙からの脱出を

               しかし私は見た


           闇の中に輝く、青い青い地球があることを”


             ************


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